坂本小学校
2013
12










何の感動もなかった小学校の卒業式
皆は帰りに遊んで行こうと言っていたけど
僕はさっさと家に帰ってゲームがしたかったんだ
あの後電話で怒られたような気がする
大ッ嫌いだった6年2組
あれだけ仲良しだった(はず)のクラスメイトも
中学になったらただの他人
ほっとした





T先生は依怙贔屓が大好きだった
父兄からは密かに子供のお父さんに色目を使っているとヒソヒソされていたらしい
いつも乳首が浮いているから誘っていると
何て酷い言われよう
先生は朝っぱらから開口一番「何で貴方達は言う事を聞かないの!」と
ヒステリックに泣きわめいた
うるさかったなぁ、なんだったんだろうあれ
あれは我が校の汚点だよ
ある日朝学校に来たら、教室に先生のパンツが落ちていた
生成り色のレースのついた大きなパンツだった
どよめく教室に先生は入ってくるなり真っ先に何も言わずにパンツを回収していった
あれはなんだったんだろうなぁ





小学校の旧校舎には、こんな噂があった。
校舎裏にあるボイラー室がある場所は、元々馬の屠殺場だった、と。
昔、使えなくなった馬を殺す場所が、ここにあったんだ、と。
だからあそこには、幽霊が出る。
初めてのクラス替え、僕は三年四組になった。
四組だけは、イヤだったんだけどな。
4と言う数字が、「死」を連想させる。
四年生になったら四年四組、死ぬ死ぬだよ、最悪じゃないか。
小学生らしいくだらない理由。
生き物係、花係、図書係、保健係…
お決まりのクラスの係活動、僕のクラスには、噂好きの女の子が作った「ミステリー係」と云う係があった。
学校の噂や七不思議を解明し、新聞にし発表する。ちいさなちいさなマスメディアだ。
ミステリー係が目をつけた記念すべきスクープ第一弾、それが、「ボイラー室の幽霊の謎」だった。





ミステリー係のSちゃんとRちゃんは、カメラでボイラー室を撮りフィルムを現像に出した。
出来上がった写真は、今でも忘れられない。
ボイラー室の窓に写る無数の顔。
1枚だけではない。3枚撮れた。
一際目立つのは目を見開いたように見える赤くて大きな歪んだ顔。
3枚に、共通して写っていた。
それを取り巻くように写る、無数の白い顔。いずれも、目を大きく開けこちらを見ているように感じる。
暖かな日差し萌黄の頃、この季節ボイラー室は使われていない。誰もいない筈なのだ。
今迄数えきれない程心霊本の類いは見て来たけど、あの写真に勝る写真は…、未だに見た事がない。
「やった!撮れた!」
写真は翌日、『ミステリー新聞』に堂々掲載された。
ボイラー室の噂は本当だった!
記念すべきミステリー新聞第一号はおおいに話題を呼び、教室の外に貼られた事もあり他クラス、他学年の生徒達も集り休み時間毎に周囲を犇めかせた。
実際に、あんな写真、どんな「心霊本」の類いでも、見た事が無い。学校を卒業して数年経つ今でも…、あんなにも恐ろしい写真は、他に知らない。
噂が噂を呼び収束しない事態となり、流石に見兼ねた先生達が「この新聞をはずしなさい。そして写真も処分しなさい」とミステリー係のSちゃんとRちゃんに通告した。
「え、なんで?だって本当の事、本物の心霊写真ですよ!」
「だからだよ」
…
自分達の知らないところで、事態はもしかしたら、取り返しの付かない事に、なっていたのかもしれない。





「ねぇ」
ミステリー新聞がはがされたその日、Rちゃんに話しかけられた。
「ああ、新聞、残念だったね。面白かったのに。皆も残念がってたよ」
「その新聞なんだけど」
後ろから、Sちゃんも口を開く。
「写真…、どうしよう」
心霊写真を撮ったら、呪われる。
学級文庫で一番人気の心霊本に、確かにたしかにそう書いてあった。
「どうしよう…」
「うーん…お父さんが心霊写真撮れた時は、ネガごと燃やせって言っていたけど…。
あの本にも何か書いてないかな」
「見てみようか」
案の定、
「あった!」
その本ではなく、別の心霊本に、心霊写真が撮れた場合は、その写真を撮れた現場付近に埋めて供養する事、と書いてあった。
「本当かよ」
ネガについては特に言及されていなかった。
「本に書いてあるんだから本当だよ!明日、埋めに行こう!
Aちゃんは一緒に来てくれるよね…?」
翌日の放課後。
Rちゃん、Sちゃん、そして勇気ある(野次馬心・怖いもの見たさ・ノリ)数名のクラスメイトで、ボイラー室へと向かった。
3枚の写真と、恐らく自宅にストックしてあったと思われる“普通の”塩を持って…
写真は、ボイラー室脇の砂利に埋めた。
塩を撒いて、Rちゃんが言う通り「ごめんなさい」と手を合わせた。

手を合わせ、目を瞑る。沈黙。
と。
「キャーーーーー!!」
突然、誰かが叫んだ。
目を開ける、誰かが走り去る、皆、恐怖心に耐えかね後を追うように走る。
長い長い旧校舎の裏を、息が切れても走り続けた。
全員が音楽室の前迄走って、逃げた。
「これでもう…大丈夫だよね?」

きっと。

きっと。

数日後。
「写真がなくなってる」
RちゃんとSちゃんが、気になって埋めた写真の様子を見に行ったら、埋めた筈の場所がほじくりかえされ、写真が3枚共なくなっていたそうだ。
聞き込みをしていくうちに、どうやら3組の男子が面白がってほじくりかえしたそうだが、その写真の行方は、結局分からなかった。

「どうしよう。呪われたら、どうしよう」
「大丈夫じゃない?少なくてもうちらは謝ったし、呪われるなら面白がって写真を玩具にしようとした男子共だべ。
まぁ、あとはちゃんとネガ焼いておきなよ。ああいったものは、何もかも消してしまうのが一番いいんだよ。
何もなかった。それで、いい」

ほんの少し期待したドラマティックでバイオレンスな展開も、よくある誰かに原因不明の何かが降り掛かる事も呪われる事も、結局何も、なかった。
次第に写真の事は忘れられていき、ミステリー係も次なるスクープに夢中になっていた。
大小あれど、常々大衆と云うものはオカルトより身近なスキャンダルの方に興味があるようだった。

「ねぇ、先生」
「なぁに、Aちゃん」
「写真、…結局どうしたの?」
先生は、いつだって何も教えてくれない。

[ 終幕 ]
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