ダムに沈んだ村・大荒沢 - 湖に沈む村
2014
11
10年に一度、其れは姿を現す。




「10年に一度、姿を現す廃村がある」
友人らからそう話しを聞き、いてもたってもいられなくなった。
丁度別の友人が一時帰国し、北国へ行く約束をしていた。
「ついでに、行かないかい?寧ろ私、ここに凄まじく行きたいんだ」
と、振ると。
「勿論だよ!」
返事は軽快に。
3週間引き続ける風邪を長々ズリズリ引き摺り、彼の地へと向かった。






秋田と岩手の境目。
何時の日もこの地の空は、鉛色だと言う。
風は強く吹き晒し、寒さは厳しい、生きるには過酷な土地だ。
寒々しくもそこに大自然の尊大さを覚えずにはいられない。
雄大なV字峡に、錦秋湖と云う湖がある。
この湖は、人工湖だ。
時は50年以上遡る。
湯田ダムを建造するに辺り、この地一帯は大規模な移転をする事となった。
幾つもの村々が、湖の底に沈んだ。
10年に一度姿を現すも、木造の家々は基礎も残るか残らないか。記憶の中でしか憶いは、残らない。






山間から吹き下ろす烈風が容赦無く身体を打ち付ける。
ふと、遠くに人影が見えた。
最初に出逢ったアマチュアカメラマンの男性とは、別の男性のようだ。
大荒沢駅ホーム跡付近で、相見える。
村がダムに沈む頃、当時小学3年生だったという男性だ。
こうして村々が水面から顔を出す時期になると、町から毎週末やって来ては様子を見るのだそうだ。
懐かしそうに、束の間思い出を、語ってくださった。
自分達が孫や次世代にこの村の事を伝えられる、最後の世代だと言っていた。
男性の齢は65歳。上の世代は高年齢化し、下の世代はそもそも当時幼過ぎて記憶が残っていない。
写真に、残してください。
そう言って、くださった。
「なんだかこんな景色を見ていると、猿の惑星を思い出すよ」
丁度私たちが、車の中から村を見下ろしながら喋っていた事を、男性も言った。
それ、私たちも丁度話していました。と笑う。
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