生々しい紛争跡が刻まれる、サラエボのショッピングモールの廃墟 - Shopping Mall Destroyed by The Bosnia-Herzegovina Conflict -
2018
23
そこを知ったのは偶然だった。
道路を走らせている時、ふと目に入る破壊された建物。
「あれは何?」
「紛争の時破壊された建物だよ。」
首都、サラエボに。そのまま放置されているとは。

博物館で見た紛争時の映像に映っていた建物だった。
その建物の前で銃撃戦が起きていた。
鳴り響く銃。
人々の叫び。
戦う軍人。
倒れる民衆。
血と涙と怒りと悲しみと。
そこには悲劇しかなかった。

様々な廃墟を見てきた。美しい廃墟、不気味な廃墟。不思議な廃墟。
ここは、生々しい廃墟だ。

銃痕が無数に残る。
指一本分の大きさの穴もあれば、二本分の大きさの穴もあった。
自分の手で壁に触れ、目を閉じる。コンクリートの冷ややかな触感が伝わった。


棟から棟へ繋がる中廊下。
紛争時か経年劣化か。

内部は所々燃えたような箇所があった。

20年以上も経てば、人工物も自然に侵食される。
青々しい葉を空に向けて、伸ばし続ける逞しい緑。

建物自体はガランとしているがなかなか大きい。

恐らく噴水だったであろう痕跡。
ショッピングに付き合わされたお父さんが縁に腰掛けて休んだり。
女の子同士が他愛もないおしゃべりをしたり。
子供をあやすお母さんがいたり。
当たり前の平和な日常光景が、そこにあっただろう。

第一次世界大戦の引き金となった「サラエボ事件」の舞台となったこの国の現在は、当時からは考えられない程恐らく平和だ。
しかしこうした紛争の痕跡は未だ各地に大量に残っており、銃痕を修繕しないまま使用し続けている建物も多い。
負の遺産として「あえて」廃墟として残している場合もある。
日の入りが刻々と迫っていた。
天気は気持ちのいい晴空から、忽ち激しい雷雨へ変わってしまった。
轟く雷鳴、バチバチと打ち付けるような雨音。一気に暗くなる空。
廃墟の中で私は当時の情景を思い浮かべていた。
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