ドナウ川遊歩道の靴 - Shoes on the Danube Promenade -
2019
17
ハンガリーの首都ブダペスト。
ドナウ川を挟んでブダ側とペスト側に分かれていおり、その川畔に佇む建造物群の美しさからドナウの真珠と呼ばれている。


地下鉄の駅を出てすぐの場所に国会議事堂があった。荘厳で繊細なゴシック建築は見ても見ても飽きる事を知らない。


朝、夜行列車でブダペストに到着し、ホテルに荷物を置いてから朝一番で山の上の廃病院やサナトリウムへ足を運んだが、ひとつはセキュリティが強化されもうひとつは売りに出されている状態で中が整頓され切っていた。
不本意な登山で疲労困憊した私はのんびりと川を眺めていた。

なんだかもうこの景色を見ているだけで幸せを感じる。
しかし、ここには同時に悲しみの歴史も存在している。

一見それは、オシャレな現代アートに見えるかもしれない。

鉄で出来た錆びついた靴。

男性、女性、子供の靴。
約60足の靴のオブジェが、ここに並んでいる。

時は遡り、第二次世界大戦。
ハンガリーではナチスドイツの支援を受けたアロークロスパーティーという反ユダヤ主義政党が実権を持っていた。彼らはブダペストのユダヤ人を地獄へと叩き落とした。
川に並べられたユダヤ人は銃撃により射殺された。その際、当時貴重品であった靴を脱ぐ事を強制された。

ハンガリーを追いやられた8万人近いユダヤ人はオーストリアの国境の収容所まで死の行進を強制された。
そしてドナウ川の畔りで約2万人のユダヤ人が射殺された。

賑わう観光客、通り過ぎる遊覧船。
この時代は平和だ。
暖かな夕焼けも感傷に変わる。
手向けられる花は日々絶える事がないのだろう。

ヨーロッパ各地に、こうしたユダヤ人の凄惨な歴史の痕跡は観光地として開放されている。
写真映えする美しさだけではなく、こうした負の歴史の上に今の平和が成り立っているという事を、時々は考えてもいいかもしれない。
ホロコーストと国家の略奪―ブダペスト発「黄金列車」のゆくえ
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